イラスト:まちろ
このブログは実姉妹百合アンソロ第一弾を姉妹が読んだ風なSSになっています。
姉:美来(でれでれしてるほう)
妹:美夢ちゃん(うぎゃーのほう)
・アンソロ購入を迷われている方
・姉妹百合大好きさん
・寄稿してくださった作家さん
のための特別編です。お楽しみくださいませ。
プロローグ『来る夢、見る夢』Lilium Anthems
「お姉ちゃんは心配です」
「なにが」
「千円くらいでお願いを聞いちゃう美来ちゃん。犯罪に巻き込まれないでね」
「……おねぇだけだし」
「んふふふふふふふ」
「……なに」
「デレた美夢ちゃんはかわいいねぇ……なめたい……」
「……心配するのはむしろおねぇのほうだよ」
「どうしてぇ? あ、お姉ちゃんがあんまりかわいいからでしょ。うりうりー」
「犯罪する側だよ。分かって言ってるでしょ」
「あら。お姉ちゃんは美夢ちゃん専門犯罪者なので大丈夫ですよぅ」
「その発言がアウトだよ」
呆れながらも、当たり前のように美来の膝の上に座る美夢。そしてページはめくられる。
一作目 18回目の紫陽花の季節 千手美花
「まるで私たちみたいねぇ」
「いや。おねぇは終始暴走モードでしょ」
「そう? アレの時は、優しいでしょ?」
「……ばか」
「顔真っ赤。かわいい」
「はぁ。それで。ご感想を」
「紫陽花の季節。つまり巡る1年の中で変わっていくふたりの関係。一見すると、めまぐるしいけれど。今の私たちの関係だって、来年にはどうなるか分かんないわよね」
「うん(あいかわらず真剣なおねぇはきれいだなぁ)」
「『姉という生き物は写真を撮るものだと思っていました』って表現があったわね」
「うん」
「それって、とてもありがちで。ただ『怖い』ことなのよね」
「なんで? 別に怖くはないでしょ」
「怖いこと、よ。相手がどう思っているかは関係なく、自分のイメージに当てはめてしまうのは。あまりに利己的だわ」
「そっか……知ろうとしてないってことね」
「えぇ」
「……(おねぇも、もしかしたら、変態じゃないのかも)」
「だって、このお話のお姉ちゃんは私と同じで妹ちゃんのセクシーランジェリー姿を待ちわびていたわけでしょう? ほらほらほら! サルートならお小遣い何ヶ月か貯めればいけるわよ」
「はぁ……(前言撤回)」
「それで。美夢ちゃんはどうなの?」
「はい?」
「美夢ちゃんも、お姉ちゃんへの大大大大大大好きを閉じ込めてたりしない?」
「ばかじゃないの」
「ふふふ。私も、何年でも待ってあげるからねぇ」
「……うん。素直になれるまで、まだ。時間がいる、から」
「尊い……」
二作目 呪いの絆 うららかりんこ
過去と現在、そして未来。
たくさんで、濃厚な感情描写が入り交じる、姉妹の絆。
美来と美夢はしばらくの間、噛みしめるように沈黙した。
りっちゃんとあーちゃんはどんな人生を歩むのか、続きが気になる実姉妹の関係に。
ふたりはセンチメンタルな気分でお互いの肌にふれた。
先に口を開いたのは、そう。姉の美来だった。
「『I Love you』」
「ピリオドが抜けてる」
「(なんでわかるのかしら)でもこのお話ではついてるわね。ちゃんと」
「じゃあ、なんでおねぇはついてないの」
「お姉ちゃんが訳すなら『私の愛は永遠に、あなたに』だから」
「――っ! ばっ、ばかじゃないの!」
「ふふふふふふふふ。かお、まっか」
「はぁ……」
「それにしても、運動できるのうらやましいわね」
「うん。かっこいいよね」
「今からクラブに入ってこようかしら」
「なんで」
「美夢ちゃんに応援してもらいたい」
「動機が不純」
「いやぁ。いいじゃない。あの、汗香る青春な感じ。あまずっぱいわぁ……」
「(Lilium Anthems運営は引きこもりだから書けないと思う)」
「せ・い・しゅ・ん」
「なに、近づいてこないで」
「青春、しよ?」
「ぎゃー! セクハラしたいだけでしょーーーー!!」
「……美夢ちゃんが本当に嫌になるまでは、させてね」
「……うん」
ふたりはちょっとだけ、強く抱きしめ合ったのでした。
三作目 ねこねこ姉妹 ぽよぽよザンギ
「お姉ちゃん、天然だよね」
「え? 私?」
「違う。お話の中の。卯菜ちゃん。おねぇはおねぇでしょうが」
「ふふ、美夢ちゃんたまに『お姉ちゃん』って呼ぶから」
「あれは……その……」
「わかってるよ。そうだね、ど天然だね」
「姉妹で子どもなんてできないでしょ」
「作れるよ」
「……うん?」
「今は科学技術も発展して。私たちが大人になる頃にはできると思う」
「えっと……それはドラえもん的な発想だよね」
「パラダイムシフトは突然に」
「なにその映画タイトルみたいな言葉」
「固定電話からスマートフォンへの技術進化は、前時代の人の想像を遙かに超えた……」
「むずいむずい。そう、それで、どっちが生むの。まずそこだよ」
「お姉ちゃんが産む、かな(そして、まずそこではないと思うわ。美夢ちゃん)」
「なんで?」
「なにかあったら、お姉ちゃんが苦しめばいいから」
「そういう言い方、やだなぁ」
「ふふ。ごめんね。でも、ほんとよ。私が失敗しても、その経験を生かして美夢ちゃんが次にチャレンジする。それがいちばんいいの」
「おねぇは犠牲になるの?」
「ううん。失敗するつもりもないわ。ただの保険」
「……なんか、おねぇなら『ほらほら産めたわよぅ』とか言ってきそう」
「ふふ。そうかもね」
夢物語。でも夢で終わってほしくない。そう思いながら、ふたりはお互いの、お腹を撫でたのでした。
四作目 風雅ドロップアウト 月掻(つきかき)
「キャンプに行きましょう」
「行きません」
「はぁ。美夢ちゃんはつれないわねぇ」
「……いいよ。べつに。私たちは逃げてしまいたい家じゃないし」
「そう」
「なんだか、息苦しそう」
「そういう見方もあるわね」
「……なに。おねぇはあの家そんなに嫌じゃないの?」
「息苦しそうだけれど、見方を変えれば、両親に守ってもらえてるから」
「やっぱり、頭がいいと考え方が違うんですね」
「美夢ちゃんすねてるわ。かわいい」
「……すねてないし」
「ふふ。大きくなると忘れちゃうけど。私たちが小さな頃。自分で立てなくて、歩けなくて。食べれもしない。そんなときがあったでしょ」
「そうだね」
「そう、だから、お母さんたちががんばって働いたお金でこうして暮らしていける。学校も行かせてもらえる。それはね、とても感謝すべき事だわ」
「わかるよ。わかるけどさぁ……かわいそうじゃん、雅ちゃんも」
「ふふ。やっぱり美夢ちゃんは優しいねぇ」
「むー」
「いいじゃない。『風雅』になれたんだもの。それはそれで一つの形。過去は変えられないけれど今と未来は変えられるわ」
「うん」
「それこそ私たちの名前の由来、みたいにね」
「え。知らない。教えてよ」
「ふふ。また後でね」
「むーーーーー!!」
五作目 最愛の妹の純情期とツンツン期とデレ期 メリケンリュックサック
「美夢ちゃんは私のこと、避けたりしないわよね」
「うん。というか、なんだろう。友だちに『お姉ちゃんとお風呂に~』とかいわれたことない」
「あら、そうなの」
「うん。だって、当たり前でしょ? 変って言う方が変だよ」
「(そうすり込んだのは私だけど、心配だわ)」
「まぁ、そんなに言わないんだけどさ。そもそも」
「ふぅん」
「だって、おねぇとの思い出は私とねぇだけが知ってればいいじゃん」
「(意志が強いわねぇ。そして、独占欲がすごいわ。しゅき)」
「でもおねぇも大学に行ったら私と離れちゃったりす――」
「――しないわ」
「即答」
「当然じゃなぁい! あ、それとも焦らしの期間が必要かしら」
「いらない。もう、十分焦らされてる」
「なんか、すなおねぇ……かわいい」
「あ……えっと、その……うつっちゃって……」
「デレ期が?」
「う、うん……」
「かわいすぎて死ぬ」
キスをしようとする美来を、手のひらで押しのけて。
姉妹はまたいちゃいちゃするのでした。
六作目 歪な二等辺三角形 そすぅ
「ひぇー。つぶやきばれてるの怖すぎ」
「あら、見せられないツイートでもしてるの?」
「いや……そういうわけでは」
「(そうよね。おねぇ語録とか、おねぇとの思い出とか。見られたら消し飛ぶわよね。恥ずかしくて)」
「むー、おねぇはちゃんとしたツイートしかしないし」
「うーん。そうねぇ。後輩ちゃんたちにけっこうリツイされちゃうから」
「それはよござんしたね」
「もー、すねないでぇ! 本当に好きなのは美夢ちゃんだけよぅ!」
「はぁ。それで、お話はどうでしたか」
「同一場面での多視点はやっぱり読みごたえがあったわね」
「ど、どう……なんだって?」
「ふふ。みんないちゃいちゃしててよかったね」
「そうだねぇ」
「(あたまがふわふわな美夢ちゃんかわいいわ)」
「なんか、あやちゃんはおねぇみたいだなって思った」
「あら、世話焼きなところが。かしら」
「ナチュラルに変態なとこ」
「そうねぇ」
「否定してよ!」
「しないわぁ。匂いの話。わかるもの」
「は……まさか……」
「ふふふ」
「うわぁ」
「美夢ちゃんもMだからねぇ」
「や、やめてぇ」
「ふふ。私たちも、秘密の関係。始めましょ」
「そんなとこさわらな――ぎゃー!!」
七作目 みどりそーだと積乱雲と 保編撫子
「えっちなおはなしだ」
「ふ、ふふふふ……あははは!」
「な、なんで笑うの!」
「ううん。だんだん、美夢ちゃんが『かわいく』なってるから。あ、もちろんずっとかわいいわよ」
「ぶー……私が言葉知らないのばかにしてる」
「ふふ。いいじゃなぁい。ほらほら、私たちも『ぶーわい』食べる?」
「『ねーちゃ語』は読んだ人にしか伝わらないよ」
「そうよ。私たちの会話はそのためのものだもの」
「?」
「まぁまぁ、それは置いといて……。そういえば、覚えてる? 美夢ちゃんにもねーちゃ語。つまり、オリジナルの言葉があったのよ」
「へ、なに?」
「『だりこ』とか」
「あ……あー……お、おぼえてないなぁ」
「ふふ。隠すのへたねぇ。私に抱っこしてもらって、おかおをぐりぐり。おねぇにだっこぐりぐり、略してだりこ」
「あー、はず……」
「してあげよっか」
「……うん」
「え?」
「な、なに」
「素直だったから、びっくりしたわ」
「もう! じゃあいいよ! おねぇのばか!」
「冗談よぅ。ほらほら、おいで」
「ん……」
未来の首、耳裏に鼻をこすりつける美夢。
おねぇの香りがする……。そう思いながら、うっとりとしてしまう美夢ちゃんでした。
八作目 バニラアイス おしゃれなもなか
「アイス食べたくなった」
「……」
「ね。そうじゃない? 美夢ちゃん」
「うー……おねぇに私以外の恋人ができる想像をしてしまった……」
「いや?(これはプロポーズなのかしら)」
「うーん。わかんない。なんか、そうしたらおねぇは私から離れていくだろうし。だとしたら私は誰といっしょにいればいいのかか分からないわけで」
「もう」
美来は美夢をぎゅっと抱きしめた。そして、指切りげんまん。それはとても大切な約束。
「別に……おねぇに幸せになってほしくないわけじゃない。私より好きな人がいるんだったら、それでいいと思う」
「だけど?」
「おねぇの横に、私がいないのが想像できないし」
「美夢ちゃんの横に、私がいないのも想像ができないしねぇ」
「うん」
「でも、お話にもあったけど。いっしょにいるだけが、形じゃないと思うし」
「ふふ。迷ってるわねぇ」
「うーん……」
「すごくうれしいわ。でもね、もしそれが、逆になったとしてもあなたは迷わずに、どちらか好きな方を選んでね」
「おねぇ……」
「どちらかを選ぶことは、どちらかを捨てること。けれど、それであなたが幸せになるなら」
「あ。そっか。両方にいっしょにいてもらえばいいんじゃない?」
「ふふ。それも……そうね」
嬉々として説明する美夢。
美来はどこか寂しげにほほえんだ……。
九作目 藍色の恋 阿賀沢隼尾
「ぐす」
「どうしたの」
「なんでもないし」
「ふふ、ほら。本を置いて。ぎゅってしてあげる」
「うん」
美夢を抱きしめる、美来。その姿はどこか、母と娘のようで。恋人のようで。それでいて、姉妹だった。
「悲しいお話じゃないわ。ただ、そういう形もある。というだけよ」
「うー……」
「ふふ。もう、そうよね。昔からハッピーエンドが好きだものね」
「だってさぁ……私が、おねぇに断られたらどうしようって思っちゃって……うぅ……」
「(恋愛感情として好き、と言っているようなものだけど。天然なのよねぇ)」
「おねぇは、断らないよね?」
「私自身の気持ちとしては、ね」
「ぐす……どういうこと」
「美夢ちゃんと私の未来。お母さんたち、それと。周りのお友だち。たくさんの人との関係が変わるから、私はきっとそれを考えて答えを出すわ」
「そう、かなぁ」
「えぇ。だから、もしかしたらいろいろなことを考えて断ってしまうかもしれない」
「えー……」
「それこそ、あなたの気持ちや、私の気持ちが本当に恋なのかどうかもわからないから」
「ふ、ふぅん。私は、違うと思うけど」
「えぇ。そうかもね」
「……いてくれる?」
「え?」
「私の答えが出るまではいっしょにいてくれる?」
「うん。もちろん」
そう、美夢ちゃん。あなたはとても優しくてかわいくて、そして残酷な人。
気づいているかしら、私はあなたの選択ひとつでどうとでもなってしまうことを。
でも、それでいい。私はあなたにとって、姉であり、恋人であり、そして心を許せる場所でありたいから。
この話にも出てきたフロムの言葉。
「一人でいられる能力こそ、愛する能力の前提条件なのだ」
それが本当なら、私はあなたを愛していい理由などないわ。
もう、これでお話はおしまい。
あとは、私たちのエピローグ。大切な、私たちの終わりのお話……。
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改めまして
読者のみなさま。いつもご愛読ありがとうございます!
作家のみなさま。ご寄稿ありがとうございます!
実姉妹百合アンソロジー第二弾の方は現在予定はございません、が!続いてほしい!というあなたの一声が企画の第一歩。ぜひレビューやツイッターなどでお知らせいただけると嬉しいです( ・ω・)
当方ツイッターでは母娘百合アンソロジー第3弾のご参加をお待ちしておりますのでぜひご参加くださいませ~!
既刊家族百合アンソロもよろしくお願いします!
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